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デッサンの壷 2007
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ツボちゃんとつぼみ

プロローグ

そのとき、あたしは窓辺の机で、大学ノートにネーム(*1)を描いていた。

「あーあ、締め切りまでに終わんないー…、まいっか」

すると突然、机の上の空間が青白く光りだした

「あー、あたし疲れてんのかなー、なんか変なのが見える…」

と思ったか思わないか、光の中から浮き出すようにツボが表れた

ツボである。

ありえない。

なんでツボなのかはこっちが聞きたいが、とにかくツボが空中に忽然と表れた。

しかも、目と口がついてる。

なんなんだ、本当に。あたしはただ呆然と、それを見ていた。


「どっせい!」


ツボは叫んだ。

すると青白い光が消え、そして重力に任せて、ネームの上にドゴロン!と落ちた。

「えええええええ!?なに、なに、なにこの展開!?」

大概の事では驚かない自信があったあたしでも、さすがに慌てた。

訳が分からない。
唐突過ぎる。

普通、もっと何か前触れとかがあってこういう超自然現象がおこったりするのではないか?

でも目の前にはツボがあって、あたしの苦労の結晶であるネームを踏みつぶしてこっちを見上げている。

ツボが、あたしを、見上げている。


「ちょっ、ちょっとまって、どういう事、これは!?」

すると、ツボが答えた

流暢な日本語で。


「ああ、これは失礼。この落書きは大事な物だったかな?」

ツボがまともな日本語を話した事にひどく混乱しながらも、あたしはちゃんと「落書き」という言葉を聞いていた。

落書きだとぉぉぉ?

「落書きじゃない!あたしのネームになんて事すんの!?」

ツボは困った顔をした
ツボが困るのを初めて見た。

「ネーム?よく知らないが、大事な物のようだな、すまない」

そういうと、まるでゴムで出来ているかのようにピョンと跳んでネームから降りた。

以外と軽そうに飛び上がったが、机に着地したときはやはりドゴロン!と重そうな音がした。

「えーと、えーと…、これはどういうこと!?」

何か質問しなきゃと思いつつも、あまりの唐突な出来事に頭がついていかない。

ツボも困った顔のままだ。

「ふむ、自己紹介からしなければならないようだな…」

ツボは一通り自己紹介をした。

内容は、何とも信じがたいものばかりだった。

ツボは、どこかにある知られざる王国の王子らしい。
そして王国は今、悪い魔女の呪いにかかっており、
王家と重臣たちがツボの姿に変えられてしまった
古い伝承によると、
その姿を素晴らしいデッサンによって描かれると呪いは解け 人間に戻る
のだという。
ツボの王子はそれが出来る人材を捜すため、遥々この地へ送り込まれた…。

そしてツボの王子は
「私は今でこそこのようなツボの姿だが、
人間であったときには絶世の美男子であったのだ」

と、大事そうに付け加えた。

何もかも信じがたい話なのだけど、「絶世の美男子」という所だけはちょっと信じてみたい気もした。

そして話を聞き終わる頃には、恐怖心と動揺は、好奇心と興奮に変わっていた。

「じゃあさ、あたしが手伝ってあげるよ!絵のうまい人を探せばいいんでしょ!?」

あたしは早速持ち前の楽観主義を発揮していた。

そう、上手い人を捜して、このツボがどれだけ美男子なのか、見てみたい!
きっと学校の美術の先生なら素晴らしいデッサンを描いてくれるはずだわ。

ところが、事はそう簡単ではなかった。

「それがな、絵を描くのはそなたでなくてはいけないのだ」

そなた、というのがあたしを指すのだと気づくまでに数秒かかった。

「あたしがデッサン!?冗談きついよ!あたし自己流でやって来たし、せいぜい同人やってるくらいだから、デッサンなんて必要ないし…」

ツボは相変わらず困った顔をしている。
困った顔は何となく似合わない気がする。
ツボに似合う顔というのがどんな物かは考えた事もないけれど。

「しかしな、言い伝えでは異邦で初めに合った絵描き、とある」

「いほう」の意味がすんなり出てこなかったし、「えかき」という言葉もどこか浮いて聞こえる。

「いやいやいやいや、あたし絵描きじゃないし!普通の高校生だから!」

全力で否定するものの、正直なところ絵描きと呼ばれて悪い気はしなかった。

「このらくが…いや、ネームとやらも絵なのだろう?」

そういって、取っ手の部分を器用に動かしてネームを指した。手…なのかな…??

「そりゃ、絵は絵だけど…。でも、あたし本当に絵をちゃんと勉強した事も無いし、誰かに教わった事もないよ!?」

とまぁ、全力で否定しつつも、正直なところ、ちょっといい気分だった。
絵描きなんかじゃないといいつつ、やっぱり絵が好きだし、漠然と絵描きになりたいとは思っている。

「ならば、デッサンは私が教える。時間はかかろうが、そなたはまだ若い。直ぐに上達するであろう。」

そなたはまだ若い、ってことは、この王子様、結構歳いってるのかも…、30代くらい?
でもその方が好みかもー…なんて、あたしは既にアホな妄想に入り始めていた。

 そして、結局あたしは説得された。
  デッサンかぁ、難しそうだよね…?

つづく…